植物の生理:光合成
植物生理の基本は、光合成です。太陽からのエネルギーは、光合成によって植物に固定されます。さらに言うと、我々動物は、(家畜も含めて)植物を食べてエネルギーを取っているので、我々生物のエネルギー源は太陽からの光です。
光合成は、(葉緑体のチラコイド膜の電子伝達系によって)光エネルギーを化学エネルギー(ATPとNADPH)に変換する過程(下図の左)と葉緑体のストロマの炭素固定系によってCo2を固定しブドウ糖などの炭水化物を生成する過程(下図の右)から成り立ちます。
窒素は、葉緑体の構成成分で、葉の窒素の70-80%が葉緑体に行きます。葉の光合成速度と葉面積あたりの窒素含量の間には強い光の時のみ相関があります。すなわち、暗い環境の葉に多くの窒素を持たせるのは無駄で、明るい環境下の葉に窒素を送れば光合成を最大化できると言うことになります。窒素ばかり肥料で与えると葉ばかり大きくなると言われていることと一致します。
C3/C4/CAM植物
少し難しいですが、作物によって光合成を固定する場所が異なり、それによって作物は三つのタイプに分類されます。
- C3植物:光合成を一つの回路(カルビン・ベンソン回路)だけで行う植物です。乾燥などで、蒸散を少なくするため気孔を閉じておく必要がない環境では、CO2固定が一つの回路ででき、C4植物に比べて余分のエネルギーが必要とはなりません。大半の植物がC3植物です。
- C4植物:C4植物は、光合成を二つの回路(葉肉細胞と維管束鞘細胞)の分業で行われる植物で、C3植物に比べて光合成の能力が高く、成長が速いです。
- CAM植物:パイナップル、サボテン、アロエなど多肉植物で、気孔が夕方から夜間に開く植物です。厳しい自然環境のため高温の昼間に気孔を閉じて水分の蒸散を防いでいると考えられます。
植物の生長
植物が成長する基本は、太陽からのエネルギーと水と二酸化炭素で光合成を行いブドウ糖を作り出すこと、17種の栄養素が吸収され、細胞の構成要素であるDNAやアミノ酸やたんぱく質、脂質などが作られることです。
DNA(デオキシリボ核酸)にはリン酸と呼ばれる物質(化学式は H3PO4です)が含まれています。またタンパク質を構成するアミノ酸、例えばシステインの化学式はC3H7NO2Sです。これらの物質に含まれるP(リン)、N(窒素)、S(硫黄)は光合成からは生成されないので、どこかから供給される必要があり、これが栄養(肥料)です。
詳細には、分子生物学や植物生理学などのサイエンスに立ち入ることが必要ですが、ここでは、農賢機巧のテーマである「植物の力の最大化」を図るための「基本原理」を把握することにとどめ、IoTでの「仕掛け」を考察することにします。
植物の成長点
植物の成長の根源は、根の先端や芽の先端にある成長点と呼ばれる部分にあります。植物は細胞壁を持っているために細胞が移動しないので、成長していくために積み木式に体の組織を作ります。既存の体の構造を壊さずに大きくなるために、先端から新しい細胞を供給して、既存の組織の上に新しい組織を積み上げていきます。
動物と同じように、新しい細胞は様々な役割を持つ細胞に分化し、植物としての組織を作っていきます。茎には芽があり、芽の中心は成長点です。芽が伸びて、葉にも花にもなるわけです。その後形成された葉が大きくなったり、茎が太くなるのは、細胞分裂ではなく、細胞が大きくなることによります。
草も木も成長の仕組みは同じですが、木は2年目以降形成層による成長を行います。これは茎の内部にある円筒状の組織で、ここで細胞分裂が行われ、新たな組織が作られ、茎(幹)が太って行きます。成長点による成長を伸長成長、形成層による成長を肥大成長とも言います。
農作物の生産量
植物の生長を促進するには、栄養素(肥料)が必要です。栄養素は、DNAを形成し、アミノ酸、タンパク質の元になります。細胞が分化し、葉となったり、花となり、実となっていく過程で栄養が使われ、”農産物”が作られることになります。
実際の植物、農作物の成長は、その栽培環境と人為的な営農に大きく作用されます。栄養素の生理的効果、収穫量に影響する環境要因、ストレス(病害虫などの生物ストレス、天候などの非生物ストレス)は多様です。これらを最小限にすることで、その栽培植物の種が予め持っている最大値を引き出せるようにすることが、植物の力を最大化することになります。